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5    新・裁判例【女性の逸失利益の算定に全労働者の平均賃金を採用】
 
 
  
 会社員で22歳の主婦(高卒・年収302万円)が死亡した交通事故の民事交通訴訟で,被害者遺族は逸失利益の算定に「全労働者の平均賃金」の採用を求めました。裁判所(地裁支部平成16・7・28判決)は,これを採用して損害賠償を命じました。彼女(若年有職主婦)が男女差別のない社会で尊厳を有する個人として生きた証です。
 
「・・・会社に勤務して,男性と区別のない賃金を得ていたことが認められる。また,男女共同参画社会基本法等の影響により,わが国にあっても,将来にわたって,男女間の賃金格差が残存するとは思われない。なお,・・は,本件事故当時,産業計・全労働者の満20歳から24歳の平均年収額(平成14年において,298万6400円)を超える収入を得ていた(・・・)。そうすると,・・の逸失利益は,賃金センサス平成14年第1巻第1表の産業計・企業規模計・全労働者の年収494万6300円を基に,・・・算定される。」
 
弁護士喜多正達: 2004/12/17
 
 
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《追記》
 
(1) 一審
津地方裁判所上野支部平成15年(ワ)第101号損害賠償請求事件
平成16年7月28日判決 (判決の該当部分は前記のとおり)
平成16年8月被告控訴
 
(2) 控訴審
名古屋高等裁判所平成16年(ネ)第790号損害賠償請求控訴事件
平成16年12月22日判決(控訴棄却)
 
【裁判所の判断】
 
「イ 被控訴人は,○○の逸失利益の算定に当たり,男女を併せた全労働者の平均賃金を基礎収入とすべきである旨主張し,これに対し,控訴人は,女性労働者の平均賃金を基礎収入とすべきである旨主張して争うので以下この点について判断する。
 
 有職者の逸失利益は,従前,死亡前の現実の収入を基礎として算定することを原則とし,その現実収入が死亡当時における男女別の学歴計,前年齢平均賃金を下回るときは,同平均賃金を得る蓋然性が認められる場合,同平均賃金を基礎収入として推計する例が多い。特におおむね30歳未満の若年者については,年齢,職歴,実収入額と平均賃金との乖離の程度・原因等を考慮の上,後者が採用される例が多かったということができる。そして,後者において,男女別の平均賃金が採用されてきた理由は,現に男女間の賃金格差が存在し,その格差が容易に解消ないし縮小しない以上,これが逸失利益に反映すること自体はやむを得ないとの考え方に基つくものと考えられる。
 
 しかしながら,確かに賃金センサスに示されている男女間の平均賃金の格差が,ある面で,現時点における現実の労働市場の実態を反映していることは否定しがたいとしても,本来,人が有する労動能力は,個人による差はあるとしても,性別に由来する差が存在するわけではなく,現実に存在する上記のような格差は,男女間の役割分担についての従来の社会通念の下において,女性が家事労働(育児のための負担を含む。)の負担との関係で男性に比べて相対的に就労期間や労働時間の制約を受けやすく,したがってまた就労可能な職務内容も制約される場合が多かったことに由来するものというべきである。
 
 しかし,近時の法制度や社会環境,意識の変化等,女性の就労環境をめぐる動向に鑑みれば,通常の能力と意欲があれば,女性であっても全労働者の平均賃金程度の収入をえることは,さほど困難でない環境が整いつつあり,また,そのような趨勢自体が,将来変わるとも考えられない。そして,そのような状況の下では,若い女性が婚姻後も就業を継続し,実際に男女格差のない,しかも当該年齢に応じた全労働者平均賃金に近い賃金を得ておれば,将来的にも全労働者平均賃金と同等の賃金を得,同等の就労可能年数労働を継続することについて特段の支障も認められない。それ故,様々な個体差の中で性差のみに着目して基礎収入を算定することには,もはや合理的な理由は見出しがたいというべきである。
 
 したがって,本件においては,全労働者の平均賃金を基礎収入として○○の逸失利益を算定するのが合理的であり,損害の公平な分担という観点からみても,このように解することによって,過大な逸失利益を認定することにはならないというべきである。」
(以上、判決の該当部分)
 
 
《備考》 裁判所は,会社員で22歳の主婦の逸失利益の算定に「全労働者の平均賃金」を採用し,これを前提に生活費控除割合の個別具体的な認定をして損害賠償額を算定しました。
 
弁護士喜多正達: 2004/12/24
 
《注記》
名古屋高等裁判所 平成16年(ネ)第790号 損害賠償請求控訴事件
最高裁のホームページ・下級裁主要判決情報に掲載されています。
 
弁護士喜多正達: 2005/2/14

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